博士号取得大作戦! -presented by Mika- -4ページ目

なぜ一部の科学者がねつ造に走るのか

話は簡単だ。ねつ造しなければ、おまんまの食い上げになるからだ。
「科学者の倫理感を育てよう」という動きがあるが、それが効くのは早稲田の「お金は有り余ってたけど、勉強が足りませんでした」松本教授くらいだろう。仮にプログラムが開始されて倫理教育が徹底されても、「業績がないと即失業」という状況がなくならない限り、ねつ造は決してなくならないと私は考える。


「業績がないと即失業」とはどういうことなのか。まずは科学者の職、キャリアはどのように進んでいくかを示したい。科学界が想定している典型的な科学者は、通常27歳で大学院を修了・博士号を取得し、その後はポスドクと呼ばれる任期制の職を渡りあるき、適当なところで終身雇用の職を得る。
適当なところというのは人によってかなりまちまちで、30代後半で教授になる人もいれば、40過ぎても終身雇用になれず、ポスドクのままの人もいる。


ポスドクとは何か。念のため簡単に説明すると、ポスドクとはいわば「一年契約、数年満期の契約社員」のことだ。「博士号持っているのに、40過ぎても契約社員?!」なんて驚く人もいるかもしれないが、現実に終身雇用の職を得られないままポスドクを繰り返している人は、そこらじゅうにごろごろいる。これが、科学界の現状だ。


さて、ここでちょっとイヤな想像をしてみよう。仮に、35歳を過ぎたある男性ポスドクがいたとする。彼は残念ながら頭脳の出来が他の研究者より劣っていて、本人もそれを自覚し始めたと仮定する。
彼にはすでに妻子がいて、生活を支えなければならない状況だ。ポスドクの任期は今年いっぱいで切れ、今所属しているグループには次の大型予算が下りなかったので、新たに職探しをしなければならない。科学界はどんどん業績主義に傾いていて、次の職を得るためにはどうしても論文が必要である。なのに今年は実験がうまくいかず、ちゃんとした論文が出せそうにない。ポスドクの職は歳を取るほど厳しくなるし、助教授・教授に応募するには業績が足りない。もし次の職が得られなければ、妻子ともども路頭に迷ってしまうかもしれない。


この崖っぷちポスドク男性を、あなただと仮定しよう。もしあなたが博士号を持てるくらいの能力はあって、それなのにこのような危機的状況に陥っているとしたら、果たしてどんな選択肢が浮かぶだろうか。


「食べるために、仕方なく緊急避難的な行動に出る」選択肢が浮かばなかっただろうか。


もちろんここで「いやいや、それだけは絶対にダメだ。他の選択肢を探そう」と思えればいいのかもしれない。しかし、人間は危機的状況に追い込まれると、倫理観なんて吹っ飛ぶ。倫理なんて守っている場合じゃないし、そんなことよりまずは今を生きのびること、今のごはんを手に入れることの方がよっぽど大事に思えてしまう。刑法だって、「緊急避難」のケースでは殺人すら罪に問わない、というか問えない。危機的状況で人は倫理的には動けないし、それはもうどうしようもないことなのだ。


私は極端なケースを話しているのではない。この日本の中に、本当に次の職が得られないまま無職に追い込まれる博士号所持者が存在するのだ。無職までは行ってなくても、次の職が得られるかどうか冷や汗をかきながら研究をしているポスドクはたくさんいる。業績主義・人材の流動化をかかげて、終身雇用の職はどんどん減っている。ポスドク本人は口に出さないかもしれないが、研究がうまくいかなければ無職になるというプレッシャーは、相当なものだ。


もう一度、今度は私自身が想像してみよう。もし、私が上記ポスドクのケースでありながらもう少し頭が回ると仮定したら、どうするだろうか。追いつめられる前にちょくちょくガス抜きをしておくことを思いつくかもしれない。どういうことか。正攻法では勝負にならないと悟った時点でマジメ一辺倒の方針を転換し、来年の職がなくなるという状況に陥る前に、あらかじめ業績をうまく整えておくのである。幸いなことに(?)今の科学世界は、論文のデータそのものを疑う仕組みにはなっていない。それを知った上で日頃からうまく(?)やれば、うまくすれば誰にもバレずにトントン拍子に出世でき、悪くても職にはあぶれなさそうだ。……なんて、そんな酷いケースも想像できてしまう。


「競争的原理がすべてをうまく動かす」という世間の風潮に、私は大反対だ。この理論は、「人間はどんな状況下でも、あくまでも倫理的に行動する動物である」という、全く間違った大前提の元に成り立っている気がしてならない。もちろん、研究者全体に改めて倫理教育を行うことは無駄ではないし、必要な動きだと思う。しかし、倫理教育が行き渡ったからといって不正行為が一切なくなるとは思えない。追いつめられた全員が不正行為をするとも思わないが(一部は自分を責めてうつ状態になるのかもしれない)、不正行為はあくまでも、追いつめられた人が取らざるを得ない選択肢の一つであり、追いつめられた人がいる限り、ある確率で必ず起きるものだと私は考えている。


じゃーどうすればいいのかって? ……私は、なにかと非難の対象だった「人生のゴールにたどり着いたとばかりに、研究をほぼ放棄した大学教授」を増やす方向に行くのがいいと思うナァ。職さえ安定していれば、倫理的には問題なく落ち着いていられると思うし。それくらいのオイシイ思いがなかったら、誰が好きこのんで博士課程に行くもんですか。……いや、私は好きこのんで行ってるんだけどサ。

博士号って、本当に魅力的ですねェ。どうしてだろ。


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参考記事

学術会議が「科学者の行動規範について」声明採択 (サイエンスポータルデイリーニュース、10月3日参照)

http://scienceportal.jp/news/daily/0610.html

報告書は結構面白いこと書いてあるので、特に学生のみなさんはぜひ一度読んでみてくださいませ。勉強になるよ。

新たに見つかった疑惑論文、詳細

時間を見つけて詳細記事を書こうと思ったのですが、

なかなか時間が取れないので、

まずは毎日新聞の該当記事 が指し示している

論文はどれなのか、詳細情報だけお伝えします。



Fidelity of DNA Polymeraseε Holoenzyme from Budding Yeast Saccharomyces cerevisiae.
J. Biol. Chem. (2002) 40, 37422-37429.


The DNA polymerase domain of polε is required for rapid, efficient, and highly accurate chromosomal DNA replication, telomere length maintenance, and normal cell senescence in Saccharomyces cerevisiae.
J. Biol. Chem. (2002) 31, 28099-28108.



一部の図に、相当アヤシい部分(コピペ?)があります。

原文が読める環境の方は、ぜひ見てみてください。


仮にこれらもねつ造だと仮定すると、

杉野教授の件で今までに明らかになったねつ造論文は、

なぜかすべてJBCということになります。

なぜでしょう。

JBCには、ねつ造論文を通しやすい何かがある?



速報:エントリー紹介 &なぜ私はこの問題に関心があるのか


柳田先生が、阪大杉野教授論文ねつ造問題に関し、英語で非常に重要なエントリーをお書きになりました。内容には「ハラスメントの報告を受けたえらい人が、次にすべきことは何か」など、とても大切な示唆がたくさん含まれています。それなりの立場にいる大学関係者・研究所関係者の方は、ぜひ目を通しておくべき文章と考え、ここに紹介します。


The Third Eye of Mitsuhiro Yanagida :Professor Akio Sugino's case

ついでにおすすめの辞書はこちら


なぜ私がこの事件を執拗に追っているか、念のために説明しておきます。私はハラスメントを受けた経験上、今回助手の方がハラスメントに抗議した時の大変さと、その後の恐怖が手に取るように分かるからです。


抗議する時には相手の悪事をこちらが証明しなければなりません。証拠を集めて説明するのは、本当に大変な作業です。運が悪いと告発窓口の担当者にやる気がなかったり、こちらに疑いの目を向けてきたりするため、その担当者に状況を理解してもらうために無駄に心身が消耗します。すでに精神的苦痛をさんざん被っているのに、抗議すること自体でさらに疲弊がつのるのです。


そこへ、「抗議がうまくいったら、相手に報復されるかもしれない」という恐怖が加わります。実際に相手からプレッシャーがかかる場合もありますし、自分も疲れ切っているため、刺激に過敏になっています。DVの被害者が逃げ込むシェルターのようなものがあればいいのに、そういうものは告発者には用意されていません。自分だけで自分の身を守るのは、本当に大変なのです。


これらは、すべて自分の経験に基づいた文章です。実際にこういう経験があるからこそ、私は助手さんの件で本当に心を痛めているし、これから同じような事件が絶対に起きてほしくないと思っています。だからこうして情報を集め、発信を続けているのです。


完全告発マニュアル:告発前に、まず自分を守れ

あなたがもし研究業界にいて、間近で不正行為を目撃したら、果たしてどうすべきでしょうか。

対処法は2つ。一つは、自分が不正行為に手を染めないようにすること。もう一つは、自分を安全な場所に移し、その後で必ず、かつうまく告発することです。


もしあなたが学生で、他のメンバーの不正に気づいたら、すぐに教授に報告してください。不正とは何かを含めて、相談に乗ってもらえるでしょう。ついでに科学世界における不正とは何か、自分なりに情報を集め、勉強してください。教授が不正を見過ごすようなら、その教授はまともではないので、別の指導者を探すべきです。学会などで知り合った別の研究者に相談し、いい進学先を紹介してもらいつつ、自分でも探してみてください。進学先はできるだけ独断では決めず、分野の近い誰かに相談を仰いでください。


もしあなたが雇われ研究者で、ボスの不正行為を発見したなら、すぐに他のポストを探してください。ボスを指導するのは、自分の親を教育するくらい不可能なことです。次のポストを探す時、また変なボスの下にいく羽目にならないよう、必ず「知り合いのまともな研究者に相談をもちかけ、ポストを紹介してもらってください」。移籍にはどんなに早くても半年程度はかかりますので、その間は焦らず、騒がず、告発もせず、不正もせず、まずポストを得ることに全力を注いでください。常時研究者を公募している研究室は、ハズレが多いものです。また、第一印象が良すぎるボスは、人がくるくる入れ替わる現実をカバーするために第一印象だけ磨かれている場合が多く、要注意です。


もしあなたが雇われ研究者で、ボスあるいは上位の研究者から「不正行為をしろ」と言われた、あるいはしろといわんばかりのプレッシャーをかけつづけられているなら、絶対に自分からはしないようにして、そして、すぐに他のポストを探してください。その時に、「不正行為をしているボスから逃げる為だ」などと、本当のことは決して言わないでください。本当のことは、まともなポストを得て、自分が安全な場所にいると確信してから、少しずつ話すものです。


もしあなたが雇われ研究者で、同僚の不正行為を目撃した場合、対処にはもっとも注意が必要です。ボスがまともで、同僚もまともなら、きちんと正面から注意しても大丈夫かもしれません。もしそういうことをできる間柄でないなら、ボスにこっそりそれとなく知らせるよりありません。もしボスからまともな反応がないなら、そのボスもまともではありません。すぐに他のポストを探してください。


もしあなたが研究室のトップ、あるいは誰かの指導者で、被指導者の不正行為を発見したなら、即座に指導すべきです。立場を上手に利用して、適切に指導してください。指導の後は、その本人を含む研究室の皆で、必ず酒を飲みに行ってください。不正の芽を摘むためには、罰を与えるだけではダメです。その後の「いい連帯感」を強めるよう、本人およびまわりに、間接的に働きかけるのが大切です。


自分を安全な場所に移動できたら、しばらくはのんびりと神経を休めて、そのあと初めて告発を検討してください。文科省がこれから作る告発担当窓口は匿名告発を受け付けてくれないようですが、安全な場所にいるあなたならきっといいアイデアが浮かぶはずです。また安全な場所にはまともな研究者がたくさんいますから、きっとあなたの勇気をたたえ、支援してくれることでしょう。


もしあなたが不正を止められなかったり、告発できなかったとしても、どうか自分を責めないでください。世の中には、どうにも救いようのない人間がいるもので、それはあなたの責任ではありません。まず自分の安全を確保することが、一番大切です。あなたには、家族がいて、仲良しの友達や研究者がいるのですから、まずは自分を大切にしてください。今はダメでも、数年後には行動を起こせるかもしれません。タイミングをはかるのも、とても大切なことです。


最後に。どんな立場に置かれても、必ず抜け道はあります。私もかつて、苦しい立場に置かれていた経験があるので分かります。必ず抜け道はありますから、一呼吸おいて、まずは自分の安全地帯を確保してください。焦って行動を起こさないでください。逃げ道がふさがれてしまうかもしれません。

もしどうしようもなくなって、死にたくなったら、必ず誰かに助けを求めてください。私でもかまいません。

だから、あなたは絶対に死なないでください、絶対に。



関連記事集

研究世界ってどうなのよ

日本の研究業界 崩壊の序章 【追記あり】

下村教授の論文ねつ造事件の熱がさめやらぬうちに、また大阪大学で新たな論文ねつ造疑惑が発覚した。
しかも、今度は人が一人死んでいる。


http://www.asahi.com/national/update/0907/OSK200609070010.html


亡くなった(自死と発表)方は、阪大の生命機能研究科教授であるS野A雄氏の元で助手をしていた。
JBCに投稿された問題の論文は、すでに取り下げられている。


問題の論文
http://www.jbc.org/cgi/content/abstract/M603586200v1
取り下げ後
http://www.jbc.org/cgi/content/abstract/M603586200v2


これだけ聞くと「助手のねつ造に気づいた教授が論文を取り下げ、ねつ造した助手本人が自死したのか」と誤解してしまいそうだが、真相は違う。
ねつ造の可能性を指摘し、阪大の調査委員会にねつ造の内部告発をしたのは、亡くなった助手自身のようなのだ。


調査委員会を率いている研究科長の近藤寿人教授は「助手が(不正などに)かかわった事実もない」と話している。
論文のファーストオーサーは別の人、コレスポンディングオーサーはラストオーサーでもある教授。他に共著者が2人。
ねつ造をしたのは、いったい誰なのか。



論文ねつ造疑惑 タイムスケジュール


2006.4.13 問題の論文がJBCに投稿される
2006.5.30 修正後再投稿
2006.7.11 アクセプト
2006.7.12 ネット上で論文が公開される
2006.8. 2 著者の申し出により論文が撤回される
この間に、阪大の調査委員会が調査を開始?
2006.9. 1 助手(2nd Author)が研究室で死亡しているのが発見される
2006.9. 6 新聞報道



現在、S野教授は阪大研究者データベースで検索できない状態。
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/kg-portal/aspi/rx0011s.asp
しかし、サーバーには情報が残っている。
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/kg-portal/aspi/RX0011D.asp?UNO=*****&page=2  (*****=10232)
S野教授の研究室も、今は阪大HPからアクセスできなくなっている。
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labo/index.html
キャッシュ http://72.14.235.104/search?q=cache:fMzbvDLoopIJ:www.fbs.osaka-u.ac.jp/labo/12a.html+%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E9%99%A2%E7%94%9F%E5%91%BD%E6%A9%9F%E8%83%BD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%A7%91%E7%B4%B0%E8%83%9E%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E8%AC%9B%E5%BA%A7%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93%E8%A4%87%E8%A3%BD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%AE%A4&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=1



……淡々と書いているようだが、私の頭の中は怒りで沸騰している。

どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ!
ねつ造してない人が、どうして死ななきゃいけないんだ?!
調査委員会が調査を始めて、問題の論文も取り下げできて、状況は良い方に向かっているのに、なぜ助手さんは自死したの?
ぜったいなにかおかしいよ!


……それにしても、「アジ化ナトリウムで自死」って、変だなと思いません? 
生物系の研究室には、もっと簡単に逝けるような(失礼)毒物がたくさんあるのに。
わざわざアジ化ナトリウムを選ぶなんて、ちょっと変な感じ。



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<新聞報道リンク集>

共同通信 9月6日
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=soci&NWID=2006090601003260
朝日新聞 9月7日
http://www.asahi.com/national/update/0907/OSK200609070010.html
読売新聞 9月10日
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060910i403.htm


<関連ブログ記事>

柳田充弘の休憩時間 Intermission for M. Yanagida
http://mitsuhiro.exblog.jp/4510284/
http://mitsuhiro.exblog.jp/4515704/
http://mitsuhiro.exblog.jp/4529953/

日々是好日
http://blog.goo.ne.jp/lazybones9/e/7adbdcab630dcb5919c7e439c393529c


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昨日の晩酌
・フレシネ コルドンネグロ(スパークリングワイン)
おっきな仕事にひとまずメドがついたので、まずは乾杯。


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【追記】

新聞等の報道機関が公表した記事リンク集 を作りました。今後も随時追加します。



若手の理研離れが始まっている


最近になって立て続けに、「これからの理研には期待できない」という意見を博士課程の学生たちから聞いた。彼らは今、理研の生物系研究室で研究を行っていて、私の目は未熟と知りつつも勝手に判断すると、非常に優秀、かつ今後絶対に優秀な研究者になるに違いない人たちだ。


彼らの意見はたまたま、全く別の機会に一人ずつ聞いたが、主張は全く一緒だった。「理研はキチキチしてて、常に追いまくられている感じ」「博士課程の研修にはいいかもしれないけど、将来ここで働こうとは思わない」「働いている人たちがとても辛そうで、自分はそうはなりたくない」


これが、今の理研の生物研究分野の、研究室内部の実態だと言えるだろう。対外的には多少、いやいや多大な成果が出ているように見えるかもしれないが、そこで働く博士学生たちは研究室の様子をこのように感じており、できれば今後はこういう環境を避けたいと願っていることがわかった。


現在の理研の研究の目玉、ビッグプロジェクトの中でも、タンパク研究関係、脳関係の研究室の一部がかなりきゅうきゅうとしているウワサは、分野に近い研究者であればみな知っているところだ。考えてみれば当たり前かもしれないけど、そんなにキチキチの中で学んでいる学生は、その研究あるいは研究分野に対して、決していい感情は持たないし、持とうとしても持てないだろう。


ギスギスした雰囲気での研究は、いま研究している人たちがいる間は何とか持ちこたえられても、次世代に良い影響を残さないことが分かった。今後日本の科学研究が発展していく上で重要なのは、今の博士課程の学生たちをどう育てていくか、である。近い将来の研究を支えていく若い人たちに「夢」を与えられないような研究の進め方は、長い目で見ると、日本の科学研究の衰退をもたらすに違いない。


そういえば、私の後輩に当たる博士課程3年のヤツは、企業への就職を決めたらしい。彼もなかなかガンバるタイプなんだけれど、アカデミックの世界に見切りをつけたようだ。アカデミックからの人材流出は、すでに始まっている気がする。

ハジを承知で大胆に予測すると、今の博士学生がポスドクになる時期、ちょうど数年後くらいから、理研での職を希望する優秀な研究者が減ってくるのではないだろうか。

特に生物分野で。


なんだか肌が合わないワケ

柳田先生のブログを読んでいて、発見。β主任となんとなく肌が合わないワケが分かった。


>知識を愛するのとは無関係にやる気満々で研究室を率いている人達はもうすでに40代を先頭にたくさんおられるというのが、わたくしの赤裸々な実感です。
(柳田先生のブログ該当記事 より一部引用。詳しくは記事全文をぜひ読んでみてください)


柳田先生という方は、私も実はあんまりよく知らないんだけれど、生物研究の業界でかなり有名な先生の一人らしい。たしか京大を定年退職後、今も特任教授として第二のラボ人生を送っていらっしゃるはずだ。


そんな柳田先生が指摘した、研究界の現状。的を射ている気がして、思わずウーンとうなってしまった。


β主任は、人間として全くダメな人であるという指摘はもう何度もしているとおりだけれど、研究のやる気は満々に見える。雇った研究員が実験結果を出せば、論文をさっさと書いて出すし、常に新しい研究分野を探して、いろんなアイデアを出しまくっている。だから彼の業績表を見れば、いつでも論文でいっぱいだし、シンポジウムも開催しまくっているから、外から見れば完全に「できるリーダー」だ。


でも、科学の研究って、論文出すだけが命じゃないと思う。新しい発見に対して興奮したり、みんなでディスカッションしたり、時には酒をかっくらったり、そういう「知識発見そのものに対する喜びを共有すること」が大事だと思う。まだ私は未熟で、そういう大事さがうまく説明できないんだけど、柳田先生はその大事さをきっとつかんでいるんだと思う。


研究をすることと、研究業績を出すことは、すこし違いがあるのかもしれない。β主任はいわゆる「研究業績」は出しているし、本人もやる気満々で楽しそうだけど、人とその喜びを分かち合うって感じでは全くないし、そういうことをするつもりもなさそうだ。彼のやっていることは、研究業績を出す仕事ではあるけれども、「研究」とは呼べないと私は思う。


研究ってなんなのか、正直いって私もよく分からないんだけど、すくなくともβ主任がやっているような「いろんな分野をつまみ食いして、論文を数こなす」のが研究の本質ではないと思う。研究の本質とは、今までの歴史の中でつちかわれてきたいろんな経験や知識を、その分野の先人から受け継ぎ、敬意をもって引き継いでいくことにあるんじゃないだろうか。なんだか伝統芸能みたいな感じだね。


正に40代の新進気鋭、β主任は、○研に来てから、仲良しの先生ができたという話を聞いたことがない。歴史のある○研には、先人がつちかったコミュニティがいろいろとあるけれども、彼はいままでの人たちと人間的な交流は何一つ持っていないし、持とうという気もないように見える。もしかしたら、もともとそういうのができない人なのかもしれないけれど。


あーあ、早くα教授がβ主任のワルぶりに気づいてくれないかなぁ。所長はすでに気づいているらしいのになぁ。でもα教授は○研の主任会にも出ないで外国を飛び回っているし、そういう、人として大切な何かを感じるカンは悪いみたいだし、期待できないかもなぁ。


そんなワケで私は、今回も休学延長届けを出すことにした。でももしかしたら、ぼちぼち研究室に顔出すくらいはするかもしれない。サイエンスとかネイチャーとか、研究室の本でも読みあさってこようかな。あっ、研究棟に入るためのカードキー、どこにやったっけ??


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おとといの晩酌

実家に帰ったら、酒責めにあいました。

・エビスビール 一缶

獺祭(だっさい) 精米歩合23%、日本酒純米大吟醸 常温で。

・百年の孤独 ロックで。


就活の思い出 ~最終面接でなぜ落ちた?~

ちょっと疲れ気味の未果です。みなさんは、お元気ですか? 季節はずれの台風接近にはびっくり仰天しましたね。つい10年ほど前までは、8月の台風は日本のはるか南の海上で知らない間に発生し、知らない間に東へ曲がって消えるのが常だったのに。これも地球温暖化のひとつの結果なんでしょうか。。梅雨は8月まで延びて、台風が8月でも襲ってくるんじゃ、すかっと晴れた日本の夏はいったいいつ味わえばいいんでしょ。困っちゃう。とりあえず地球のため、日本の夏のため、今日もクーラーをつけずにぺらぺらスカートとキャミソールでクールビズしてるワタシです。


ところで今回はふと思いついたので、就職活動の思い出話をしてみたいと思います。


今でこそ「自分はアスペルガーであるぞよ!」と一種のアイデンティティを獲得し、ヘンに落ち着いた気持ちになっているワタシですが、修士1-2年の就職活動時期は実に大変な思いをしました。なにしろ「自己分析」ってやつで、自分がいったいどういう考えの持ち主なのか一通りあらいだす必要があったからです。掘ればざくざく出てくる、20余年の変人の歴史。これをどう処理して、どうアピールせよというのでしょう。もちろんそんなこと、誰も教えてくれません。


途方にくれた私は完全にマニュアルに頼ることにしました。「これはマニュアル本ではない」と筆者が豪語する「面接の達人」シリーズをすべて読破し、書かれていた内容をほとんどすべて実行。「広告研究会出身者はそれを隠せ」などどうしても理解できない・または自分の属性と全く関係ない部分をはぶいて、ワタシは完全に「マニュアル人間・面接の達人号」になりました。


多分エントリーシートは100社近く出したでしょう。説明会に行った会社だけで30社近く。その中で「この会社なら働いてもいいかも」と思った会社のみ選んで、20社以上の入社試験を受けました。「働く」という意味も覚悟のつくりかたも知らなかった修士のとき、何をもって「働いてもいいかも♪」なんて決めたのか今では冷や汗ものですが、とにかく次から次へと入社試験を受けました。

受けた企業は大きく分けて、化学メーカー、化粧品メーカー、マスコミ出版系の3つ(あっ、マスコミなんて受けてる!(笑))。修士の採用は一般に学士より早く始まるので、修士採用に照準を合わせている化学・化粧品業界からどんどん試験が始まっていきます。


どんどん受けて、どんどん落ちたあのころ。でもいちいち落ちこんでいるヒマはありませんでした。なにしろ就職大氷河期をちょっと抜けたかな、くらいの就職がまだまだキビしかった年。ワタシは女性なので、それだけで門前払い同然の企業もありました。どことは言わないけど、某M鉛筆ね。今でも研究所勤務社員の集合写真は男性100%なんでしょうか? それはまぁいいや。


それでもさすがに最終面接にまでこぎつけて、なのに落ちた時は、毎回本当に悲しかった。初めて落ちた最終面接は某化粧品会社Fケル。「御社が第一志望です」なんて人事担当者全員に言うまっ赤なウソと違って、ほんとうのほんとうに第一志望だった。でもその人生かかった最終面接で、なんとワタシは、わんわん泣いてしまったのです。24才のいい大人が面接官の前で、ぼろぼろぼろぼろ大粒の涙。最終面接まで来られた嬉しさと緊張感と心配と、いろんな気持ちが混ざって、涙はどうしても止まりませんでした。その時の面接官はとても親切な言葉をかけてくれましたが、通知はやっぱり不合格。


「泣いたから、落ちたのかな」 誰だってそう思うだろうし、ワタシもそう思いました。それからの面接は、できるだけ泣かないように(?)謎の努力をしました。


次に迎えた最終面接は、某化学メーカー。今度こそ泣かないぞ、とヘンな覚悟を決めて臨んだ面接では、なんと、現場担当の面接官から、予想をはるかに外れた、しかしこの会社の業務内容にかなり近い、専門分野外の質問が。「すみません、分かりません」となんとか謝ったものの、頭は真っ白。そうか、専門分野だけが分かってても、ダメなんだ。会社研究が足りなかったワタシは、また今回も最終面接で落ちるんだ。


完全に絶望しきったワタシは、なんとか涙を見せずに面接室を出たものの、出たとたんにドバァッと大粒の涙。出口には担当の人事さんが待ちかまえており、またもや泣き姿をバッチリと見られてしまいました。「どうしたの」と優しく声をかけてくる人事の方に「どうしても…答えられなかった質問が…あって…すみません…」と、言葉を発するたびにますますくやしさがこみあげてきて涙が止まらず、とうとう泣きながら帰宅することになってしまいました。


「泣いたから、また落ちたんだ」って、思うでしょ? でも実は、最終的に内定をもらって入社したのはこの会社でした。実はワタシ、泣きながらも人事の方に「答えられなかった質問を調べて、その結果をレポートにして会社に提出したい」と申し出て、宛先をもらって帰ったんです(泣きながら)。それでレポートはまだ提出していないうちに、すぐ内定の通知が来た。泣いたから必ず落ちるってことじゃないんだなぁ、と心から身にしみて感じました。


じゃあいったい、最終面接で企業は何を見ているのでしょう? その謎を解く鍵が3回目の最終面接にありました。その会社は当時の某Nリーバ。3回にわたる面接・グループディスカッションを突破し、手ごたえはバツグン。すでに内定が出ていた某化学メーカーよりも志望順位が上だったので、はりきって最終面接にのぞみました。


結局はここにも落ちたので、ワタシは某化学メーカーに就職することになったんだけど、どうして落ちたのか理由が分かったときは本当に笑った。Nリーバは当時、飲料の研究をする新卒者が欲しいと考えていたのに、ワタシは最終面接で「シャンプーの研究がしたい」と答えたのが理由だったんです。えっ、信じられない?(笑)


Nリーバ社屋のロビーで、一つの机に集まって最終面接を待つ、数人の志望者。最終面接まで来るとそれまで敵だった人事さんが急にこちらの味方になるんだけど、にこにこした顔の人事さんは、神妙にしてた志望者たちに突然飲料ペットボトルを出してふるまってくれました。「うちの製品だけど、味はどう?」なんてアヤシイこというから、てっきり最終面接でそういう質問が出るんだと思って覚悟して部屋に入ったワタシ。でも聞かれたのは通り一遍のことと、「あなたは○○と○○、○○の中で、どの研究を志望しますか?」という質問だけ。ワタシは「シャンプーがいいです」と答えて、それで面接はつつがなくおしまい。


でも次に面接室に入って出てきた別の志望者は、出てくるなり「ああ、これって、そういう理由だったんですね?!なぁんだもう、いやー僕はがんばりました!!」 

???……!!!!!! そう、この最終面接は、残ったヤツらのなかから飲料に興味があるヤツを選ぶためのものだったんです。ワタシはシャンプーと答えた自分の口を呪ったものの、すでに遅い。案の定、ワタシの元には後日不合格の電話がかかってきました。


企業で社員として働いた経験のある今なら、この事情をもっとくわしく説明できます。企業、特に新卒者を採るようなある程度規模の大きい企業は、何年も前から「○○年度の新卒には、こういう人材が欲しい」と、かなりきっちり方針を決めているんです。具体的に例を挙げると、ワタシがいた某メーカーの某部署では、2年後に採る新卒者に「薬剤師免許を持っている人が欲しい」と完全に指定していました。すると2年後にどんな優秀な院生が入社試験を受けにきても、薬剤師免許を持っていないだけでいつか絶対に落ちるってわけです。


「就職活動は、縁だ」ってよくいうけど、実は縁が重要なのは最終面接。最終面接で運良く「企業側が本当に求めている人材」にあなたが当てはまれば、内定がもらえます。最終面接で突然人事がこちらの味方になるのは、「人事の目から見て、あなたは内定に値する、立派な人材ですよ」とすでにお墨付きが出ているからなんです。


そう、最終面接までこぎつけたあなたはすでに、人事から高く評価されている立派な「人財」。最後の最後の条件まであなたにぴったり当てはまる「縁」ある企業が見つかるまで、くじけないでがんばって!


って、誰に言ってるんだこりゃ。



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おまけ。

文科省が、年内に論文不正告発窓口を作るそうです。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060805it04.htm?from=top

ひとり色めき立ったそこのあなた、匿名の告発は受け付けてくれないそうですよ。くれぐれもご注意下さいね。


地獄の沙汰も、スタンス次第

つれづれなるままにブログのアクセス解析を見ていたら、最近「マンモグラフィ体験記」というキーワードでこのブログにたどり着くケースがかなりあると判明。それを見て、ずいぶん前、マンモグラフィについて記事を書いた ことを思い出した。ごテイネイに絵までつけて解説してあるから、けっこう分かりやすいのかもしれない。試しにGoogleで「マンモグラフィ」「体験」のキーワードでアンド検索すると、なんと3位にランクされていた。思ったよりも多くの人が、あの記事を読んでいるのかもしれない。


そういえば先日、Yahooのピンクリボンキャンペーンで、「マンモグラフィ」について、受診者を増やすための啓発キャッチコピーを募集していたので、いそいそと応募した。フリーライターからコピーライターに羽化しようとチラッとだけ企んでいるので、コピーは1ヶ月くらい練りに練った最高の作品で、ちらっと見ただけで「そうか、マンモ受けなきゃ」と思うことマチガイナシの出来だ(笑)。でもよく考えてみると、自分が書いたあのマンモ記事が、マンモの受診者をむしろ減らす方向にメチャクチャ貢献していそうな気がする。


あの記事は、これからマンモを受ける人を脅すつもりはまったくなくて、でもマンモはとにかく痛いので、このブログを読んでいる頭の良い研究者の方々(特に男性)に、現状を知ってもらいたかっただけなんだけど、今改めて読むと、完全にオドシだ。あんなオドシ記事がGoogleでヒットしまくりってことは、これじゃーぜったい、ワタシがピンクリボンのキャッチコピーで賞をもらうことはアリエナイ。珍しい名前だし、Yahoo事務局がアレを見つけたら同一人物だとバレて、「こいつの本性はコレだ」とかなんとかいうカンジで賞も取り消しになるにきまってる。この状況に気づかずに一生懸命コピーを作ったワタシは、あまりにもバカすぎた。


でもあの記事は全部本当のことだから、いまさら削除する気はない。というか、啓発コピーも痛い体験談も、両方とも必要なものだと心からおもってる。「イタクナイヨーイタクナイヨー」といくら言われても注射は痛いし、痛いと知っていても、それ以上の利益があるから、注射を受けるのだ。……って、この年になっても注射がキライなのは、ワタシくらい? みんないつの間にオトナになったの??


というわけで、全く科学とも博士号とも関係ない内容でズラズラと書いちゃったわけなんだけど、ピンクリボンでワタシが置かれているこのバカげた状況は、科学の世界を渡りあるく上での心構えとも、少しは関連する。ワタシのコピーはもともとたいしたこと無いからどうでもいいんだけど、「良いキャッチコピーなら、その人が裏で正反対の行動をしていようが、賞をあげるのが当然」と考えるのは残念ながらオコチャマの発想で、世の中はそういう論理では動いてない。ちょっと例がヘンだけど、要するに、有力者向けにはイイ顔を作っておいて、それだけを見せておくのが大事で、これは科学の世界でも全くそのとおりだ。就職はほとんど完全にコネで決まるワケだし、かのノーベル賞だって、ノーベル賞を審査する、または賞候補者を推薦できる立場にある有力な研究者とどれくらい親しいかが大事で、結果的に誰に賞が与えられるかは、本当にこういうくだらないレベルで決まっている。


まぁそりゃあ、ついこないだのボクシング八百長疑惑に比べたら、まだまだはるかにマシな世界なことは確かだけど、サイエンスの世界もおそらくこれから、どんどん生グサい方向に向かっていく。100%品行方正・正々堂々がサイエンスの世界だなんて思ったらすでにオオマチガイで、これから出世していきたければ、有名な先生にゴマをすり、お近づきになることをゼッタイに忘れてはいけない。「出世」なんて書くとオオゲサだけど、今のところ、研究者のゴールは「教授」「研究所の主任研究員クラス」にあるわけで、つまり教授になりたかったら、それなりにそれなりの努力が必要だってことだ。いい研究してたって、誰にも知られていなければ、誰もアナタをノーベル賞に推薦してくれないヨ! ……なんかダンダン、白楽師匠の文体が移ってきたかも。白楽師匠のハクラク節、読んでみました? 面白いですヨ。


ところで、おとといの記事で冒頭に書いたきっこのブログは、実は賛否両論あることを今日になって知った。まぁ、あれだけ極端な内容の記事をバンバン出してたら、アタリマエだよね。一部で言われているほどデタラメばかりだとは、ワタシは思わないけど、すべてを鵜呑みにするのではなく、自分の頭でいったん咀嚼するのを忘れちゃいけないってことなんだと思う。このブログももしかしたら、極端な方向に進むかもしれないけど、その時は、「この情報は果たして本当ナノカ? 参考になるノカ?」って、疑いの目を忘れないようにしてちょ。もちろんワタシは、完全に間違ってることは書かないつもり。


あっ、お金もらって書いてる原稿は、本当に真剣に頑張って参考になるようにめちゃめちゃ力入れて書いてるので、そっちはじゃんじゃん参考にしてもらえると嬉しい。

今日なんか、数時間かけて書いた原稿、元ネタのミスに気づいて全部ポイしちゃったよ。……そう、長々といろんなこと書いたけど、本当はこのグチが書きたかっただけなの。おあとがよろしいようで。


科学予算、国からのムチとアメ

きっこのブログ を見て、かなりハゲしく影響を受けた未果です。なんだか、世の中はワタシが思っているよりもはるかに複雑で、どうしようもなく乱れているのかもしれないなぁと感じました(笑)。まぁワタシにできることは、このブログを通して、「科学世界の実際・実態」を少しでもお伝えすることなのかも。そう、これもいつものきまぐれですが、少々おつきあい下さい。


最近、自分の進路についてものすごーく悩んでいて、「何もできないワタシは、あまり世の役に立ってないんじゃないか」と悲しく思ったりもするわけだけど、落ちこんで「ムダ!」とか叫んでばかりじゃ、しかたないよね。仮にも生物学をかじった人類のハシクレ、自分が生きているには何らかの意味があるのだと思いたいし、たぶん心のどこかでそう思ってるんだとおもう。


というわけで、本題。

今日は、サイエンスポータル のリンク先で見つけたこんな記事を紹介します。「第57回総合科学技術会議議事要旨 」ってものなんだけど、この会議は、小泉改革の一部、「中央省庁等改革基本法」によって内閣府に置かれた機関で、日本の科学技術の方向を決定する、いわば舵取り役みたいなもの。小泉首相もメンバーに入っている重要な会議で、これを読めば、これからの科学技術分野に対する国の方針がなんとなく分かる。


最新の第57回会議は7月26日に開催されていて、女性研究者の雇用問題や研究支援者問題等、いろんな検討がなされている。気になる人は読んでみてください。もちろんチマタで大盛りあがりの、「予算問題」についても話し合われた。早稲田の松本氏による資金不正流用疑惑をふまえた上で、では、今後の予算はどう運営していきましょうかね、という基本方針についての話し合いだ。


いきなり結論を紹介すると、今回の問題がなぜ起きたのかを全部で5つの問題点にまとめ、それぞれについてどう対応するか、対応の方向性が決まった。以下は、該当資料 から抜き出して意訳を加えたもので、1行目が問題点、2行目の矢印の後が対応の方向。


1) 研究資金の支出、チェックシステムに問題があった

→経理体制を強化


2) 消耗品予算が不正の隠れ蓑になっている

→物品納入のチェック徹底


3) 架空アルバイトを見抜けなかった

→研究室への立ち入り調査など、監査体制の強化


4) 告発情報の通達が遅かった

→告発窓口等の設置


5) 不正行為をやったと思っていない

→教職員への教育


つまり、今後は会計予算へのチェックがますます厳しくなるということです。該当する研究者の方、がんばってください。無責任ですいません。


これだけでは罰ばっかりで、研究活動が萎縮しそうなカンジもしますが、報告書の中ではいちおう、「研究活動の推進が最終的な目的であり、単なる規制等の強化や煩雑な手続き等により、いたずらに研究活動の萎縮を招かない」(原文ママ) とクギもさしてあります。今後、手続きや事務処理ばかりがメンドウになって、研究が進まなくなったら、「これでは研究が進みません」ときっちりモンクを言ってみるのも大事かもね。


そしてもう一つ、重要な「予算の繰り越しについて」も話が出ました。なんと、科研費ではすでに予算の繰り越し制度ができているんだそうです。エエーッ! 知らなかった! 15年度に制度ができた当初は、公共事業予算の年度繰り越しを参考にしたため、「自然災害によるやむを得ない事情」でしか繰り越しできなかったらしいんだけど(なんじゃそりゃ?)、今年からは科学技術分野でも手続きが簡単になり、申請しやすくなっているはずなんだそうです。

とはいえ、繰り越し制度の周知徹底はまだ不十分なようで、その点は今後改善されるとのこと。科研費は今では学生に旅費など出せるようになっている、という話も聞くので、少し前に比べて、状況はマシになっているのかもしれません。


ついでだから、繰り越しできる条件を抜粋してはりつけます。


以下引用

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<科学研究費補助金の繰越事由について>
繰越しの対象となるのは、下記「Ⅰ」の6つの繰越し事由のいずれかに該当し、交付申請書において確認できる研究計画の一部に係る経費を繰越すことが必要な場合であり、かつ、翌年度内に完了する見込みのあるものである。また、下記「Ⅱ」に繰越事由ごとに具体例を示しているが、繰越しの具体的理由はこれだけに限られるものではない。


Ⅰ繰越し事由
(1)研究に際しての事前の調査
(2)研究方式の決定の困難
(3)計画に関する諸条件
(4)気象の関係
(5)資材の入手難
(6)その他のやむを得ない事由((1)~(5)の事由に類似した事由に限る)


Ⅱ繰越し事由の具体例
・研究の進展に伴い、当初予想し得なかった新たな知見が得られたため
・研究計画を実施する上で必要な装置が故障したため等
(科学研究費補助金に係る歳出予算の繰越しの取扱いについて(平成18 年4 月1 日18
文科振第1 号文部科学省研究振興局長・大臣官房会計課長通知)より抜粋)

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(以上、科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について(中間報告)(PDF) p.25より引用)


科研費等の競争的予算を取れたみなさん、がんばって予算の年度繰り越しにはげんでチョンマゲ。ワタシ、いったいいつの人??


そういえば最近、ライターの仕事をもらってる担当編集の方に「未果さんは最近、原稿の題名のつけ方がオヤジっぽすぎ」とダメだしをくらいました。居酒屋で100円ビールを飲み過ぎて、どうやら脳みそまでオヤジ化してきたようです。よしわかった、それなら今後は、焼酎を飲むことにしよう。えっ、ますますダメ?? 弱ったなぁ(笑)


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あっ、ちなみに、例の早稲田問題は、毎日新聞の記事 によると、「厳密さ欠けるがねつ造ではない」という中間報告が出たそうです。この中間報告を出したのは、日本分析化学会( 日本化学会とは別組織だよ!)。同記事中にある、日本分析化学会の小泉会長の「(この論文の)著者は2人とも、この解析の専門家ではなかった」というセリフには思わず失笑しちゃうけど。。。まぁ、「ねつ造ではない」というのは妥当な解釈だとワタシは思います。